for Blissでも設立記念シンポジウムの様子をご紹介した、日本トラウムハイム協会。
ドイツのティアハイム導入、老犬老猫ホーム設立などを目指し、獣医師はじめ各分野の専門家が集まった一般社団法人です。
その第2回シンポジウムが9月3日に東京ドイツ文化会館で開催されました。
ドイツのペット医療についての記念講義
シンポジウム午前の部は、日本トラウムハイム協会理事長で獣医師のクレス聖美さんによる記念講義でした。
クレスさんは日本で獣医師免許を取得してすぐにドイツに渡り、以後ドイツで30年以上にわたり動物医療に携わっています。
クレスさんの専門は「自然療法」です。『飼い主のためのペット自然療法入門とドイツペット診療の実態』と題したクレスさんの講演では、ドイツ発祥のホメオパシーの歴史と定義から始まり、自然療法の種類、最新医療について説明がありました。
日本にも西洋式の自然療法を取り入れている動物病院はありますが、本場のドイツ、イギリスと比べるとその歴史は浅く、治療を受けられる動物病院は非常に限られています。
飼い主側も、「ホメオパシー」や「フラワーエッセンス療法」という言葉は何となく聞いたことがあっても、具体的な内容を知らなかったり、それらが人間だけでなく動物の治療にも用いられることを知らなかったりと、一般的な認知度はまだまだといえるでしょう。
また、「自然療法」と聞くと、民間療法のように科学的根拠がない迷信だとか、スピリチュアルに寄った怪しいものというイメージを抱き、敬遠してしまう人がいるのも事実です。
ドイツの自然療法
そのような日本の状況について、クレスさんは「もったいないこと」と語ります。
クレスさん自身、フラワーエッセンス療法や組織細胞療法、生物理学的インフォメーション療法、磁気療法などに初めて接したときは、「こんな方法で本当に治療効果があるの?」と疑問に思ったとのこと。
しかし、実際に臨床を繰り返すうちにその効果を実感。
改めて研究し、学術的な見地からも納得することができ、積極的に治療に取り入れるようになったそうです。
「こんなの効くわけがないと頭から否定するのではなく、治療のひとつの選択肢、可能性としてとらえるといいでしょう」(クレスさん)
ホメオパシーもドイツ発祥のものでありながら、ドイツからイギリスに伝わりそのまま継承された、厳格な「クラシカルホメオパシー」に対し、現在のドイツで主流となっているのは、応用ホメオパシー、ドイツ現代ホメオパシーと呼ばれる「ホモトキシコロジー」です。
また、鍼など東洋発祥の療法も取り入れ、様々な自然療法を組み合わせた治療が行われています。
「ドイツは自然療法の歴史が長く、一般的なものとして普及しています。もちろん自然療法だけでなく、従来型の治療を行うこともあります。『これでなくては絶対にダメ』とこだわるのではなく、いいものはいい、という柔軟な姿勢であるところが、いかにもドイツの合理的な面ともいえるでしょう」(クレスさん)
日本のペット医療ではまだまだ普及していない自然療法ですが、トラウムハイム協会のプロジェクトの一環として、自然療法専門の動物病院設立も計画されており、将来が楽しみです。
自然療法の定義
1. 治療、予防に使う薬品、方法などが自然界に存在する物質やエネルギーである。
2. 生物が本来持っている自然治癒能力を向上させ、それによって病気を治療する。
3. 副作用が少ないか、全くなく、体にやさしい療法である。
4. 使用する薬品が汚染物質として残存することがないため、環境にもやさしい療法である。
他に、ドイツの動物病院のシステムと厳しい検査基準、専門獣医師の定義などについて説明があり、日本とは事情が全く異なるドイツのペット医療の話はとても興味深いものでした。
猫ティアハイムの設立に向けて
シンポジウム午後の部は、猫のためのティアハイム設立に向けての各講演でした。
最初にドイツの猫ティアハイムの様子をクレスさんがスライドで紹介。
ティアハイムは単に猫を保護しているだけではなく、ボランティアと連携してTNR活動(※)も行っており、発生した費用は全てティアハイムが負担するそうです。
ティアハイムの運営方法、人員体制、資金についての報告もあり、運営費のほとんどが寄付でまかなわれていることなどから、日本でドイツと全く同じモデルを構築するのは難しいということがわかりました。
だからこそ、日本で運営可能なティアハイムのモデルを作り上げる必要があると、理事の辻彰彦さんによる事業プランの発表が続きました。
議論を重ねて
パネルディスカッションには、新しく同協会の特別顧問に就任した心療内科医でエッセイストの海原純子さんも登壇し、ペットが人に与える心理的影響と具体的事例について発言がありました。
現時点では、プロジェクトの第1弾となる猫ティアハイム設立のプラン、スケジュールはまだ具体的なものにはなっていませんが、実現に向けての障害は何か、どうやってその障害を乗り越えるかについて各理事から意見が出されました。
同協会が目指すことは、ペット問題の域を越え超高齢化社会、子供の教育など様々な社会問題を抱える日本に不可欠なことといえます。
1. 老犬老猫ホームの設立と、そこにおける老齢犬猫の終末期看護、看取り。
2. ドイツモデルのTeirheim(ティアハイム)の設立と動物の受け入れ、飼育。
3. 犬猫好きの元気なお年寄り、障害を持った若者達への職業機会の提供。
4. 里親探しボランティアとの連携した里親探し。
5. 里親が犬猫を容易に飼育できる環境の提供。
(犬猫の訪問健康管理、飼育できなくなった時の受け入れ確約)
6. ペットと老後を安心して暮らせるシニア施設と健康管理サービスの提供。
(動物病院を併設し、獣医師、人の看護師が常駐し、お年寄りの健康管理の為に病院と連携する)
7. 問題行動犬猫の再訓練。
8. 命の教育機関として学校と連携して、終末期の犬猫介護、Tierheimでの飼育などを子供達が見学、体験出来るシステムを作る。
(日本トラウムハイム協会パンフレットより)
意義ある目標であると同時に、実現まで多くの困難が予想される壮大なプロジェクトです。
「同じ目的を持ったいろいろな人たち、団体と横の繋がりを強化していきたい」
という言葉でパネルディスカッションは締め括られましたが、議論を重ねながら一歩一歩プロジェクトが実現に近づくことを、今後も期待したいと思います。
■写真提供:小西修さん
■一般社団法人日本トラウムハイム協会 http://jta-info.wixsite.com/jpta