高齢者の急な入院や死亡など、やむを得ない事情で行き場を失うペットが増えています。体力の衰えや認知症で、特に大型犬のお世話が難しくなるケースも多く、高齢飼い主がペットとどう向き合うかが真剣に問われ始めています。
そのひとつのヒントとして挙げられるのが、アメリカにある『タイガープレイス』。ペットと共に暮らせる高齢者施設です。
高齢者とペット。その素晴らしい関係
犬や猫などペットを飼うことが私たち人間にどれだけ素晴らしい恩恵を与えてくれるのかについては、議論の余地がないほど明らかな事実として認知されています。
特に犬の場合は散歩という習慣的行為が生じるため、毎日の軽い運動、散歩の途中で発生する犬を通じた他者とのコミュニケーションなど、人間にとって身体的、社会的なメリットをもたらします。そして、こうしたメリットは特に高齢者に対して著しく発揮されるのです。
ペット(特に犬)がもたらす高齢者への効果については、アメリカを中心に様々な調査が行われてきました。犬と触れ合うこと、犬を世話することとそれに付随する他者との関わりは、心理的・身体的に好ましい効果をもたらし、結果的に認知症の予防や症状の改善、そして寿命(単なる寿命ではなく健康で活動的な状態を維持した『健康寿命』)の延長に繋がるのです。
ペットによる健康促進効果は医療費の削減にも繋がり、高齢者とペットの関係は今や個人の問題ではなく、国を挙げて取り組むべきテーマとなっています。
ニーズが高まるペット可高齢者施設
一方で、高齢者とペットの関係には様々な問題が起きています。
高齢者が飼育しているペットは多くの場合が長年連れ添った、同じように歳を重ねた老犬・老猫であり、大型犬などの場合はその世話に大きな負担がかかります。
大型犬が寝たきりになった場合、おむつの交換にせよ床ずれが起きないよう体勢を変えるにせよ、予想以上の体力が必要であり、それは高齢者にとって簡単なことではありません。
人間社会で問題となっている「老老介護」が人とペットの間でも起こるのです。
愛犬がまだ若く元気な場合でも問題はあります。
満足に散歩に連れて行けない、遊んであげられないという状況は犬に多大なストレスを与え、無駄吠えなどの問題行動の引き金になりかねません。
最も深刻な問題は、高齢者の事情により、ペットの行き場がなくなってしまうことです。死亡、長期の入院、施設への入所。家族がペットを引き取り世話するのであればよいのですが、そうでなければ残されたペットの行き先は保護団体か、最悪の場合は保健所ということになります。
高齢者自身も、ペットと引き離されることやペットの行く末を案じる不安に苛まれ、両者にとって良いことはひとつもないでしょう。
そんなとき、「高齢者が安心してペットと一緒に過ごすことができる終の住処があれば」と、誰もが思うのは自然のことです。
日本においても、愛犬・愛猫と共に入所できることを掲げた横須賀市の特別養護老人ホーム、『さくらの里山科』が大きく注目され、様々なメディアで紹介されました。その注目度の高さがそのまま我が国における関心とニーズを表しています。
ペット可高齢者施設の先駆け、タイガープレイス
高齢者がペットと一緒に入居できる施設の先駆けとして世界的に有名なのが、アメリカのミズーリ州立大学が設立した『タイガープレイス』です。
タイガープレイスはペットと一緒に暮らすことができる高齢者用住宅・特養ホームで、最大の特徴は、単にペット可の施設というわけではなく、明確にペットとの暮らしを推奨しているということです。
介助や医療サポートなど高齢者施設としての体制はもちろん、獣医師との提携、主に学生アルバイト、ボランティアによるペットのトイレ掃除や散歩などのサポートが徹底しています。
タイガープレイスではペットを飼うことを強制していませんが、世話をできる体力・能力がある入居者にはペットと暮らすことを推奨し、その高齢者に適したペットの紹介も行います。
高齢飼い主最大の不安点「自分亡き後、残されたペットはどうなるのか」についての不安は皆無です。
高齢者のQOL(quality of life)を高めるための福祉・教育分野のプロジェクトともいえるタイガープレイスには各国から多くの見学者が訪れ、日本からも獣医師、福祉関係社などが見学に訪れます。
タイガープレイスのことを知る機会
タイガープレイス設立の立役者として欠かせない人物であるレベッカ・ジョンソン氏はこれまでも何度か来日し、高齢者とペットの関係やタイガープレイスについて講演を行ってきました。
ペットを表す「伴侶動物」という言葉の意味を的確に捉え、健康・福祉・医療分野の観点から動物のことを考える切り口は、日本の医療福祉関係者、ペット関係者、そして一般飼い主に大きな示唆を与えてくれることでしょう。
Rebecca Johnson 来日記念セミナー
伴侶動物と共に年齢を重ねる場所『タイガープレイスの13年間』
■日時:2017年11月13日(月)18:30〜(18:00受付開始)
■会場:東京大学弥生講堂アネックス セイホクギャラリー
■講師:Rebecca Johnson先生
(イリノイ州DeKalbのNorthern Illinois University終身教授、ミズーリ獣医科大学 人と動物の相互作用の研究センター(ReCHAI)責任者)
■内容:愛する家族、犬や猫と生涯安心して済み続けたい。
自分で世話ができなくなった時の対応も十分で、生涯自分の住まいで可能な限りの医療を受けられる。様々な健康維持の設備や楽しみが揃っている。言わば、人とペットが住める理想の住宅。日本の各地にこのような住宅が開催されることを夢見て開催します。
■定員:70名(定員に達し次第締め切り) 入場無料
■申込:メールまたはFAXにてお申し込みください。
E-mail: info@hph.jp FAX: 03-6256-8479
■主催:一般社団法人 人とペットの幸せ創造協会、赤坂動物病院
■後援:三井ホーム
■協力:デルベペットジャパン、一般社団法人 日本ヘルスケア協会