動物愛護、動物福祉に関する議論の中でよく出てくる「ティアハイム」という言葉をご存知でしょうか。
ドイツの動物保護施設であるティアハイムは、「動物保護施設の理想の形」といわれる一方で、最近では「日本にはそぐわない」「欠点もある」という意見もあります。
本コラムではティアハイムを簡単にご紹介します。
動物の家
「ティアハイム(Tierheim)」はドイツ語で「動物の家」という意味で、何らかの事情で手放されたペットや飼い主のいない動物が保護されている、ドイツの各地で運営されている施設のことです。
年間、約30万頭もの様々な動物がティアハイムに保護されており、そのうち犬は約10万頭。
一般的なペットである犬猫の他に、うさぎやハムスター、鳥、魚、爬虫類、施設によっては馬も保護されています。
ティアハイムに保護された動物のほとんどが新しい飼い主に引き取られ、その割合は9割を超えるといいます。
これは、ドイツでは新しくペットを迎える場合、まずティアハイムに行って、保護されている動物の中から新しい家族を選ぶ、という意識がドイツ国民に根付いているからでしょう。
もちろん、ブリーダーから子犬、子猫を購入したり、最近ではドイツ国内でも犬猫を購入できる店舗があったり、EUの他の国から購入するケースも増えているそうですが、それでもやはり、ティアハイムという存在はドイツ人にとって、ペットとの出会いの場の一番身近な機会であるようです。
厳しい譲渡条件
保護されている動物の譲渡条件は厳しく、里親希望者は、散歩やトライアル、ティアハイムのスタッフによるカウンセリングなどを経て、新しい飼い主としてふさわしいことを認められた上で、譲り受けることができます。
日本でも、多くの保護団体が譲渡に関する様々な条件や独自の規定を設け、それをクリアした里親希望者に譲渡を行っていますが、厳しい条件を課すことで、安易な気持ちでペットを飼うことを事前に阻止し、飼い主としての自覚と責任を覚悟してもらうという点では一緒です。
ティアハイムの歴史
ドイツには現在約700軒のティアハイムがあります。
その分布は、特定の地域に集中することなくドイツ全土に万遍なく存在し、ほとんどの街にひとつはティアハイムがある、という状態です。
ティアハイムの歴史は古く、その原型といわれる施設が設立されたのは1839年のこと。日本に置き換えると江戸時代の「天保の改革」の少し前ですね。
ドイツではそれから同様の施設の設立が相次ぎ、1870年にはドイツ国内に約200軒ものティアハイムがあったそうです。
それだけ古い歴史を持つわけですから、当たり前の存在として国民に広く根付いているのも納得です。
ティアハイムの運営
ティアハイムを運営するのは、その街の動物愛護協会である場合がほとんどですが、個人経営のティアハイムもあります。
経営者の形態、施設規模の大小はありますが、ティアハイムの運営は基本的に寄付から成り立ちます。
企業や個人からの一般的な寄付の他、会費やティアハイム主催のイベントによる収益、カレンダーやポストカードなどのグッズ販売による収益などで運営されています。
自治体からの補助もありますが、公的補助を受けるための条件が厳しいため、小規模なティアハイムではあえて公的補助を受けず、自力で運営する道を選ぶ場合も多いそうです。
ティアハイムを支えるスタッフ
ティアハイムを支えているのは多くのボランティアスタッフです。
ティアハイム専属の職員や専属獣医師、提携動物病院もありますが、掃除や洗濯、エサやり、犬の散歩や遊びなどの日常的な業務は、ほとんどがボダンティアによって行われています。
「猫を撫でる係」もあり、体力的に自信がなくてワンちゃんのお散歩はちょっと……という年配の方や、猫好きの人に人気のボランティアだそうです。
小学校の遠足でティアハイムを訪れたり、実際にボランティア活動を行ったり、家族で休日にピクニック代わりにティアハイムに訪れたりと、小さい頃からその街のティアハイムを身近に感じる機会が多いことが下地となり、その地域の住民が、無理のない範囲で、かつ積極的にティアハイムにボランティアとして関わっているのです。
日本に導入できるのか?
これまで日本でも、ティアハイムをモデルとした動物保護施設や制度の導入について、多くの議論が交わされてきました。
日本とドイツとでは、そもそもペット(動物)に関する法律が異なること、動物愛護の歴史や一般的な意識も異なること、また、日本が抱える課題は日本独自のものであり、海外のケースが当てはまらないことなど、否定的な意見もあります。
しかし、ドイツ人の、子どもの頃からティアハイムが身近であるということや、保護犬保護猫を家族に迎えるのが一般的という意識などは、教育や環境次第で、日本でも同じように根付かせることができるのではないでしょうか。
何より、他の国のケースを知ることによって、日本の現状を考えてみるということ自体が、私たちに必要なことかもしれません。
日本とは制度も法律も異なるドイツ。
いろいろな意見がありますが、あくまで「よその国のひとつの事例」として参考にすることで、ペットとの向き合い方についてのヒントが見えてくるのではないでしょうか。
■参考
・「ペット先進国、ドイツの犬事情」
・「ドイツの“ティアハイム”モデルの日本導入を目標に。 「一般社団法人日本トラウムハイム協会」設立記念シンポジウム」