蒸し暑くて寝苦しい夜が続く日本の夏。
この季節は無性に、怪談や妖怪の話に昔ながらのお化け屋敷、肝試しなど、古き良き日本の独特の香りが漂う、ちょっと懐かしくて、怖くて怪しいものに触れたくなりませんか?
そういえば、妖怪といえば「化け猫」に「妖狐」と動物の妖怪がすぐ浮かぶのに、犬の妖怪って何がいましたっけ?
……と、いうわけでfor Blissでは犬の妖怪にスポットを当ててみました。
そもそも妖怪って何?
そういえば、妖怪といえば「化け猫」に「妖狐」と動物の妖怪がすぐ浮かぶのに、犬の妖怪って何がいましたっけ?
……と、いうわけでfor Blissでは犬の妖怪にスポットを当ててみました。

そもそも妖怪って何?
「妖怪を5つ挙げてください」と言われたら、あなたは何を挙げますか?
児啼爺(こなきじじい)、一反木綿(いったんもめん)、塗壁(ぬりかべ)、砂かけ婆……これはどう考えても『ゲゲゲの鬼太郎』のメンバーですね(笑)
他にもメジャー級の妖怪として河童(かっぱ)、一つ目小僧、天狗、轆轤首(ろくろくび)、雪女、座敷童(ざしきわらし)など、小さい頃からお馴染みのキャラクターがすぐ浮かぶのではないでしょうか。
小説やマンガの主役になったり、近年では子供向けゲームやアニメで社会的ブームになったりと、妖怪は時代を越えて私たちにとって身近な存在といえます。
そもそも妖怪とは、日常生活の中でふいに説明できない不思議な現象や奇妙なことが起きた場合に、その時に何か音がしたとか影が見えたとか、変な匂いがしたとか、そういう五感に訴える事象に対して
「川で溺れそうになった。これはきっと河童のイタズラだ」
「あの家は急に裕福になった。そういえば幼い子供らしき影を見た。座敷童が住み着いたに違いない」
「夜、慣れているはずの道で迷った。狐に化かされたのだろう」
などと説明付けることによって、その不思議な現象を納得しようとしてきた日本人の古来の知恵のひとつです。
現代では「これは妖怪の仕業だ!」と本気で信じる人はいませんが(いるかもしれませんが)、地域ごとの言葉や特徴を反映しながら伝承されていった「妖怪」たちは、愛すべきキャラクターにその役割を変え、今でも私たちの想像力を掻き立ててくれています。
その数、無限!
そんな妖怪ですが、一体どのくらいの数が「妖怪」として知られているのでしょうか。
妖怪本の古典中の古典といえる江戸時代の妖怪画集『画図百鬼夜行』(鳥山石燕)では、続く『今昔画図続百鬼』、『今昔百鬼拾遺』、『百器徒然袋』の4つ合せて約200の妖怪が登場します。
また、妖怪といえばこの方、『ゲゲゲの鬼太郎』の作者水木しげるさんによる『日本妖怪大事典』では、1592もの妖怪が紹介されています。
他にも、妖怪を集めたデータベースを覗いて見ると、その数はざっと数えても数千種類はあるようです。
同じ妖怪と思われるものであっても地域によって呼び名が違ったり、元は同じルーツの妖怪が複数に派生しているものもあり、「日本の妖怪は全部で何種類です」と断言するのが非常に難しいのです。
また、次々と新しい妖怪が生み出されており、私たちの想像力が尽きない限り、妖怪の種類は無限と言っても過言ではないでしょう。
犬の妖怪 その1「送り犬」
さて、本題です。
それだけ多くの妖怪がいる中で、犬の妖怪にはどんなものがあるのでしょうか。
まずは「送り犬」です。
送り犬とは、暗い山道を歩いていると後ろからぴたりとついて来る、犬の姿をした妖怪です。
基本的について来るだけの害のない妖怪ですが、こちらが転んでしまうと襲いかかり、食い殺されてしまいます。でもそこで「どっこいしょ」と言って、転んだのではなく座ったのだというふりをすれば襲ってきません。
送り犬の話は九州から東北まで、日本各地に伝わっています。地域によって細かいヴァージョンの違いはありますが、犬が後をついて来るというところは共通しています。
中には、山中を旅する母娘をオオカミの群れから守ってくれた送り犬の話もあり、恐ろしい妖怪というより、人間に忠実で勇敢だという、私たちが抱く犬のイメージに近い妖怪ともいえるでしょう。
送り犬のルーツは、実際に山中で野犬(オオカミの説あり)に後をつけられた体験談だといわれています。
犬の妖怪 その2「すねこすり」
妖怪好きな人なら知っているけど、一般的には認知度がイマイチの妖怪「すねこすり」。
「犬」という言葉が入っていませんが、一応犬の妖怪です。
「一応」というのは、最近のマンガなどでは猫のような姿にデフォルメされており、すねこすりは犬なのか猫なのかよくわからないけど、とりあえず4足歩行の動物、くらいのものになっているからです。
しかし、元はれっきとした犬の妖怪です。
雨の降る夜に山道を歩いていると、スネ(脚と脚の間)をこすられ、歩きにくくなってしまいます。
他に害はなく、犬(もしくは猫)のような姿をした妖怪がスリスリしてくるのだと思えば、ぜひとも出会ってみたい妖怪です。
すねこすりは岡山県に伝わる地域限定の妖怪ですが、鳥取県にある水木しげるロードには、すねこすりのブロンズ象が設置されています。やはりそれも猫に見えます。
また、すねこすりは『妖怪大戦争』という映画に登場するキャラクターとしてヌイグルミにもなっており、これまたハムスターのようなウサギのような、何とも言えない愛らしさです。
犬の妖怪 その3「人面犬」
人間の顔を持ち、人の言葉を喋る犬です。
古くから各地に伝承する妖怪というより、口裂け女のような都市伝説に近い話のようです。
社会的大ブームとなった『妖怪ウォッチ』にも登場しているのですが、あまり可愛くありません。
主役の「ジバニャン」という猫の妖怪が非常に可愛らしい分、犬の妖怪をなぜもっと愛らしいキャラクターにしなかったのか、愛犬家としてはひとこと言いたいところです。
犬の妖怪 その4「犬神」
続いて登場するのは「犬神」です。
こちらは「憑き物(つきもの)」なので妖怪カテゴリーに入れていいのか、という問題もあるのですが、大きく「妖(あやかし)」という点では同じといえるでしょう。
憑き物というのは、ごく簡単に説明しますと、霊などが憑依してトランス状態になることです。トランス状態になって別人格になったり、神様からのお告げを告げたりします。
犬神の場合は、憑依するものが犬の霊ということになります。
さて、この犬神ですが、平安時代には犬神を憑依させる方法(儀式)が呪術として知られていました。
その方法が何とも凄惨で、愛犬家としてはとても耐えられない、描写するのも辛い残酷さです。
というわけで、具体的な方法については割愛させていただきます。「恨みを残して殺された犬の怨霊の霊力」ということでご理解ください。
悲しいのが、実際にこうした方法に則り犬神の霊力を手に入れようとしたケースが、過去あったということです。
ヨーロッパで黒猫が魔女の使いとして火あぶりになったように、犬神にするために殺されてしまった犬たちがいた、という事実を忘れないようにしたいものですね。
犬神の話はどちらかというと西日本に分布しており、四国が本拠地という説もあります。
犬の妖怪。もっと身近にいてほしい
愛犬家としては、犬の姿や特性を宿した妖怪がもっと多くていいのでは、と思います。
妖怪とは、名付けること、説明付けることによって不思議な現象を納得しようとする日本人の知恵。時代とともに新しい妖怪はどんどん誕生するのです。
何か不思議なことが起きたら「あっ、今のは妖怪“わんだらぼっち”だ!」などと説明付けてみるのも面白いかもしれません。
(「わんだらぼっち」は「だいだらぼっち」を真似てみました)
■参考文献
『日本妖怪大事典』水木しげる、村上健司 著(角川書店)
『画図百鬼夜行全画集』鳥山石燕 著(角川文庫ソフィア)
『妖怪ウォッチ 全妖怪大百科』レベルファイブ(日野晃博) 原作(小学館)
サイト『怪異・妖怪伝承データベース』(国際日本文化研究センター)