7月26日に東京大学の中島薫一郎記念ホールにて、『愛犬とのレジャーを通して、楽しい思い出と幸せな家族を増やす 〜宿泊施設・観光地交通機関と自動車メーカーの取り組み〜』 と題したシンポジウムが開かれました。
主催は「日本ペットサミット」(J-PETS)です。
J-PETSはこれまで様々なテーマを取り上げたシンポジウムを開催しており、今回は第7回目となります。
愛犬とレジャーを楽しむために私たちはどうするべきか、社会はどうあるべきかを考えるシンポジウムの様子をご紹介します。
多角的な視点でペットのことを考える会
日本ペットサミット(以下、J-PETS)は「どうぶつ達と共に暮らす幸せな社会を作ること」を目的に、2015年5月に設立された団体です。
1. 子どもとペット
2. 高齢者とペット
3. 働く動物
4. 見捨てられたペットの保護
5. ペットと暮らす楽しさ
この5つを柱に、様々な分野の専門家を招いて定期的にシンポジウムを行っています。
そのテーマは多岐に渡り、これまで
「ペットと暮らす高齢者:支えるシステムを考える 〜どうぶつ達と共に暮らす社会をつくるために活動している団体を盛り上げるために〜」
「動物にとって暮らしやすい“家”を考える」
「ヒトとの共生を可能とするイヌの特殊な進化」
「なぜネコは伴侶動物となりえたのか? ―進化と対ヒト社会的認知能力からの考察―」
という、幅広い内容のシンポジウムが開催されました。
動物福祉や社会問題だけにフォーカスするのではなく、人と動物の関係について文化的な側面を取り上げるのも、J-PETSの特徴のひとつです。
記憶に新しい、『生誕300年記念 若冲展』をきかっけに昨年社会的大ブームとなった伊藤若冲に注目し、若冲が描いた動物の絵画から、江戸時代の人々と動物の関係性についてアプローチするという興味深い講演もありました。
ペットと共生する幸せな社会作りの一環として
そんなJ-PETSが今回取り上げたテーマは、愛犬とのレジャーとそれに関連する様々な産業や取り組みについて。
最近では「ペットツーリズム」といわれる分野です。
開会にあたり、J-PETS会長の西村亮平氏(東京大学大学院教授 農学生命科学研究科獣医外科学研究室)より、今回のテーマの背景について話がありました。
愛犬家にとっては犬と共に暮らす生活が当たり前ですが、実は日本の80%の世帯は犬猫を飼っていないというデータがあります。
その中には飼いたくても飼えない人のほか、動物が苦手な人・嫌いな人、そもそも興味がない人がいます。
いずれにしても、それら“80%の世帯の人”に犬猫との共生を受け入れてもらわないことには、この先日本の社会で、ペット同行避難や公共交通機関への犬の乗車などが認められることは難しいでしょう。
犬猫と暮らしていない“80%の世帯の人”に、犬猫との共生を受け入れてもらうために必要なこと。
それは、「多くの人が動物を目にすること」、つまり「犬が街にいる風景が当たり前になること」が大切であり、同時に、受け入れ態勢作りと飼い主・犬のマナー向上が不可欠であると西村氏は提言しました。
実際、ペット同伴可の宿で一部の飼い主のマナー違反や、しつけのできていない犬がトラブルを起こし、他の宿泊客からクレームが発生したり、宿がペット同伴可を取り消すという事態が起きています。
ペット可の施設や場所が増えると同時に、ペットを飼う側も意識・行動を向上させていかなければ、“80%の世帯の人”も含めた上での、本当の“人とペットが共生する社会”の実現は難しいといえます。
ペットとの旅行、そのニーズ
第1部の最初のゲストスピーカーは、株式会社ぐらんぱう代表取締役の藤野宇一郎氏です。ペットと一緒に泊まれる宿の情報サイト『ペット宿ドットコム』を運営し、1999年6月のサービス開始以来、日本のペットツーリズムの変遷を見てきたひとりです。
藤野氏は独自のデータを基に、ペット同伴旅行やレジャーについての愛犬家のニーズを分析。
旅行への意欲はあるものの、ペットを飼っていることがその妨げになっていることや、実際にペットと旅行した場合、様々な課題点があることなどが浮き彫りになりました。
一方で、愛犬と一緒に旅行を楽しむことの充実度、幸福度の高さも示され、宿泊施設、交通手段、トイレ問題などの課題が解決されるのであれば、ペット同伴旅行は日本のツーリズムにおいて、今後ますますの拡大が期待されるジャンルであるということが提示されました。
また、飼い主側と宿泊施設側の両方の意見、ケースを長年に渡り数多く見てきた藤野氏からも、ペットを飼っている人とそうでない人の意識の差が激しいこと、飼い主側のマナーと責任が重要であるということが強調されました。
クルマとペットの関係と可能性
続くゲストスピーカーは、株式会社トヨタマーケティングジャパンの取締役、土橋代幸氏です。
幼い頃より動物が大好きで、犬猫はもちろん鳥から昆虫に至るまで、あらゆるペットを飼ってきたという土橋氏が手がけているのが『TOYOTA DOG サークル』です。
『TOYOTA DOG サークル』とは、クルマと犬の親和性に着目し、愛犬と一緒に楽しめる安全で快適なカーライフを提案するプロジェクトです。
犬種などに応じたクルマの選び方や、愛犬をクルマに乗せる際の注意点、愛犬と一緒に楽しめるイベントやドライブ情報などを、HPとSNSで発信しています。
若者の自動車離れが顕著となっている中、ペットという切り口で新たなニーズに応えて行くマーケティングは、今後もペットツーリズムにおいて重要な位置を担うといえるでしょう。
何より、自動車メーカーが主体となって、人はもちろん同乗するペットにも優しい、安全で快適なクルマや周辺機器を開発してくれることは、愛犬家にとって大いに歓迎すべきことではないでしょうか。
様々な立場から。白熱するディスカッション
第2部は来場者も参加するディスカッションでした。
J-PETSのシンポジウムは、各専門家や研究者、行政関係者、ペット関連ビジネス従事者はもちろん、一般の飼い主、学生まで幅広い属性の参加者が集まります。
そのため、いろいろな立場、視点からの質問や意見が出され、ディスカッションは多いに盛り上がります。
今回も、ある観光地での、犬連れ観光客と地元の組合とのトラブルを目の当たりにしている方から、どうしたら問題解決が図れるかという質問が出され、これに対し、他の自治体の例が挙げられるなど、興味深いディスカッションが続きました。
ペットとの共生社会作りに必要なものは何か
こうした会に足を運ぶ人は、実際にペットを飼っているか、元々動物好きで“ペットとの共生”についての意識が高い方たちではないでしょうか。
しかし、「ペットが嫌い・興味がない」という人たちに対してアプローチし、受け入れてもらうことこそが、J-PETSが掲げる「どうぶつ達と共に暮らす幸せな社会を作ること」に繋がる大切な要因です。
そのためには、飼い主一人ひとりが自分の愛犬に責任を持ち、マナーを向上させること。そして、冒頭西村氏の話にあったように、「犬が街にいることが当たり前になる」ことが重要です。
最後、「“当たり前の文化”作りは、子供の頃の環境が重要。“子ども”と“教育”がペットツーリズムのみならず、人とペットの共生の大きな鍵となる」という提言で会は締め括られました。
日本ペットサミット 今後の予定
■第8回例会
「共感する心を育む 動物介在教育」
日時:2017年9月1日(金)18:30〜20:30(受付開始 18:00)
参加費:無料(先着100名)
会場:東京大学農学部フードサイエンス棟 中島薫一郎記念ホール
講師:吉田太郎(立教女学院小学校 教頭/宗教主任)
■J-PETS年次大会
2017年10月22日(日)
テーマ:アニマルウェルフェア
※詳細はJ-PETS公式サイトを確認ください
日本ペットサミット http://www.j-pets.jp