米国ミズーリ州にある『タイガープレイス』は、ペットと一緒に住むことを推奨する高齢者施設として、世界的に注目を集めています。
大学、医療機関、民間企業が一体となって高齢者とペットの理想的な関係を追求する画期的なプロジェクトは、超高齢社会に突入している日本にとって、様々なヒントを与えてくれるモデルといえます。
設立から運営、研究まで重要な役割を担っているタイガープレイスの中心人物、ミズーリ大学獣医学部『人と動物の相互作用研究センター(ReCHAI)』所長のRebecca Johnson博士来日記念セミナーの様子をお届けします。
タイガープレイス設立の背景
11月13日、セミナーの会場となったのは東京大学弥生講堂アネックス セイホクギャラリーです。70名の定員は満席で急遽席が追加されました。
レベッカ・ジョンソン博士はこの日2度目の講演。限られた滞在日数の中で精力的に多くの講演を行い、タイガープレイスについて情報発信しています。今回の来日では青森県動物愛護センターでも講演を行いました。
講演のタイトルは「伴侶動物と共に年齢を重ねる場所:タイガープレイスの13年間」というもので、なぜミズーリ大学がこのようなプロジェクトに着手したのか、まずは大学の歴史と文化的背景について説明がありました。
ミズーリ大学には「One Health, One Medicine」(“人の医学”も“獣医学”も共に医学であり共通である)という理念があります。コンパニオンアニマル(伴侶動物)の健康が人間の健康にも影響を与えるという考えが早くからあり、それを実践するために、大学のキャンパス内に医学部、獣医学部、看護学部が存在しています。アメリカ全土に数多くの大学がある中、この3つの学部が同じキャンパス内にあるのは、ミズーリ大学含めたったの6校だそうです。
人間の健康と動物の健康を同等に扱うミズーリ大学が2005年に設立したのが、レベッカ・ジョンソン博士が所長を務める『人と動物の相互作用研究センター(ReCHAI リチャイ)』です。「人と動物の相互作用(HAI)がもたらす健康への効果の研究・促進」を使命とし、「高齢者による犬の散歩」「犬の飼育と高齢者の健康」「自閉症児のいる家庭におけるペットの飼育」「子犬の飼育による受刑者厚生のサポート」など、様々な研究プログラムがあります。
その中で、高齢化社会であるアメリカで特に必要とされたのが「高齢者が健康で自立し、人間らしい生活を送り、それを維持して天国に行きたいという社会的ニーズでした」とジョンソン博士は語ります。
ミズーリ大学の体制、ReCHAIのこれまでの研究実績、そこに民間企業である介護付き住宅と看護施設の運営会社Americare(アメリケア)社のパートナーシップが加わり、2004年にタイガープレイスが開業したのでした。
ちなみに、『タイガープレイス』という一見変わった名前は、ミズーリ大学のマスコットがトラというところから来ているそうです。
ペットと暮らすことを推奨
「タイガープレイスは単なる“ペット可の高齢者施設”ではありません。ペットと一緒に暮らすことを推奨している施設なのです」とジョンソン博士は強調します。
実際、高齢者施設としての安全性・利便性・快適性だけでなく、“ペットと一緒に住む場合の快適さ”に重点を置いた環境となっています。それは建築の構造レベルから見られ、設計段階から「いかにペットと一緒に住みやすいか」を建築家と徹底的に話し合ったといいます。
居住スペースは1LDKから2LDKの間取りで、月極賃貸料は1,500ドルから3,000ドル。この中にはハウスキーピング代と1日2食分が含まれています。いわゆる高級高齢者施設と比べると、けして高い料金ではありません。
ペットは2匹まで。大きさに制限はなく、もちろん大型犬でも大丈夫です。共有スペースでのリード着用義務やワクチン接種などの決まりはありますが、一般的なペット可住居と変わりありません。それどころか、ペットとの散歩を前提とした遊歩道や中庭、ペット用診察室、獣医師の往診、しつけ講座など、通常のペット可住宅よりも充実した施設・サービスが整っています。
「高齢だから」という不安はない
高齢者にとってペットに関する最も深刻な不安は、「自分が先立った後、残されたペットはどうなるのか」ということでしょう。
この問題について、タイガープレイスでは明確な解決策を打ち出しています。飼い主である入居者が亡くなった場合でも、ペットは施設を追い出されることはありません。施設内で飼育され、里親探しが行われます。多くの場合、タイガープレイスの他の入居者が引き取るとのことで、普段から既に顔見知りである者同士が新たに飼い主・ペットになるということは、双方にとって最も望ましい形といえるでしょう。
逆に、入居者が愛するペットに先立たれてしまった場合は、ペットロスに対するサポートがある他、新たなペットを探す手伝いもするそうです。また、ペットの世話の介助もあり、高齢者とペットの暮らしを全般にわたってサポートしています。
年齢を理由にペットを飼うことをあきらめる高齢者が多い日本から見れば、非常に羨ましい環境です。
タイガープレイスから学ぶこと
タイガープレイスが高齢化社会のアメリカの社会的ニーズから誕生したものであるなら、既に超高齢社会に突入している日本には、より緊急のニーズがあるはずです。しかし、残念ながら現状ではタイガープレイスのような、高齢者とペットのための理想的な施設はありません。
日本にもペット入居可の高齢者施設はいくつか存在し、全国的な注目を集めていますが、教育機関、医療機関・獣医療機関、民間企業が連携して高齢者をトータルサポートする施設・体制はまだ整っていないのが現状です。
講演の最後に設けられた質疑応答でも「どうしたら日本に“タイガープレイス”を作れるのか?」という質問が出ました。これについては、ジョンソン博士来日記念セミナーの主催者である一般社団法人 人とペットの幸せ創造協会の越村義雄会長から「日本にぜひともタイガープレイスを作りたい。業界横断的に取り組むべき課題であり、実現に向け皆さん一緒にやっていきましょう」と提言がありました。
ドイツのティアハイムにせよアメリカのタイガープレイスにせよ、海外のケースをそのまま日本に導入するのは難しい面があります。国によって法律、社会事情、国民意識、文化的背景が異なるからです。
しかし、実例を知ることでヒントを得ることはできます。タイガープレイスの事例は、「超高齢社会」「ペット(殺処分問題など)」「高齢者とペットの関係」「医療」「獣医療」「教育」と、私たちの社会における重要なテーマに関し、ひとつの理想的な姿を示しているのではないでしょうか。
タイガープレイス視察ツアーのお知らせ
米国ミズーリ州にある高齢者とペットの住居施設「タイガープレイス」を視察できる特別ツアーに参加しませんか?
タイガープレイスの他、全米No.1のペットショップ、グローサリーショップ、動物病院なども視察します。
関係者との情報交換会、懇親会もありアメリカの最新の「高齢者とペット」の状況を知ることができる貴重なツアーです。
『ペットとの共生 先進国に学ぶ米国視察5日間』
視察プログラム企画協力:一般社団法人 人とペットの幸せ創造協会
■期間:2018年3月5日(月)〜3月9日(金) 5日間
■訪問都市:コロンビア、ロサンゼルス
■旅行代金:425,000円(大人1名様、ツインルーム2名1室利用)
■募集人数:20名(先着順)
■添乗員:同行
■申込締切:2018年1月12日(金)
■申込方法:必要事項を記入の上、FAX又はメールにて申込
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タイガープレイス視察ツアーのお知らせ