ジャパンキャンピングカーショー 2017 リポート第3弾 〜犬ってすごい! 災害救助犬


2017年2月2日から5日までの4日間、幕張メッセで行われた「ジャパンキャンピングカーショー 2017」を “ペットとクルマの関係”の視点からリポートします。
第3弾は、注目される「災害救助犬」についてです。
実際に災害救助犬として活躍中のハルクが、大きな拍手の中トークショーのステージに登場しました。

話題になった“夢之丞”

「災害救助犬」の存在が広く話題になったのは、一匹の犬の活躍がメディアで取り上げられてからはないでしょうか。
2014年8月の広島市の土砂災害、2015年4月に発生したネパールの大地震。そして、記憶に新しい2016年4月の熊本地震。災害の現場で泥だらけになりながら生存者を探す犬の姿は、その奇跡的な生い立ちの物語と共に、TwitterやFacebookでどんどん拡散されました。
その犬の名前は、夢之丞(ゆめのすけ)。
殺処分寸前で偶然に命が助かった子犬が、その後訓練を受けて災害救助犬となり、人々の命を救う活動をすることになったのです。

生き残った一匹の子犬

夢之丞を災害救助犬に育て上げたのは、長年にわたり、国際的に様々な支援活動を行っているNPO法人、ピースウィンズ ・ジャパン(以下、PWJ)です。
夢之丞との出会いについて、夢之丞と一緒に活躍しているハルクを連れて登壇したPWJの大西純子さんは、
「本当に偶然の、今となっては奇跡としか言いようがない出会いでした」
と語ります。
それは2010年11月のこと。
多くの災害現場を見てきたPWJの大西健丞代表は、自分たちで災害救助犬を育成しようと決意。その候補犬を探しに広島県動物愛護センターを訪れました。
その日も、午前中に犬たちの殺処分が終わり、空っぽになった檻。通常“ドリームボックス”と呼ばれる、殺処分用のガス室……。
大西代表がその場所を見学していると、隅に小さな茶色い固まりがあったそうです。急いで駆け寄って見てみると、処分されるはずだった犬のうち、なぜか子犬が一匹だけガス室行きを免れ、残っていたのでした。

夢之丞と同様に災害救助犬として活躍し、様々なグッズのモデルにもなっているハルク。大西純子さんに連れられてステージに登場。トークが始まると寝そべって眠ってしまい、そのおおらかな様子に会場から笑いがこぼれた。

この子を絶対に災害救助犬に!

そのときの子犬の様子について、大西純子さんはこう語ります。
「あまりの恐怖でおもらししていました。目はうつろで焦点があわない。小さな体でガクガク震えっぱなしでした」
災害救助犬の素質を持った犬を探しに動物愛護センターを訪れた大西代表ですが、偶然に生き残ったこの子犬に運命を感じ、他の候補犬と一緒に引き取ることを決意します。
「正直、夢之丞と名付けたこの子犬が災害救助犬になれるかどうか、不安でした。出会った当初は本当に怖がり屋で、私たちと同じ部屋にいても隅っこにいるし、食べ物をあげても口にしない。
でも、どういう偶然か殺処分を免れ、それを私たちが引き取った。
だから、何が何でも夢之丞には災害救助犬になってほしい、私たちが育て上げなければならない、という強い気持ちが皆に芽生えました。そこからチャレンジが始まったのです」
夢之丞は他の候補犬と共に、災害救助犬に向けての訓練をスタートしたのでした。

ヘリコプターで熊本地震の現場に向かう夢之丞。PWJの新城卓さんによる災害救助についてのトークショーでは、夢之丞たちの活躍の動画も紹介された。

災害救助犬の驚きの能力

災害救助犬の使命は生存者を探すこと。
それは、私たち人間のように「生きている人間を探さなくては!」という気持ちから来る行動ではなく、訓練によって培われた、犬にとって楽しい“ゲーム”をしている感覚だといいます。
「初歩的な基礎訓練として、うずくまっている人、隠れている人を探し出すと、ご褒美に大好きなオヤツがもらえるというゲームを繰り返します」(大西純子さん)
一見単純なゲームのように思えますが、犬たちは人間を遥かに超える能力を存分に発揮します。
「災害救助犬は、警察犬や麻薬探知犬のように、何か特定の匂いを嗅いでそれを探し出すのではありません。どこかから漂ってくる浮遊臭をキャッチして、その発生元を探し出すわけです。
災害の場で、生存者発見の鍵となるのはその人が呼吸しているかどうか、つまり、人間が吐き出す二酸化炭素。災害救助犬は浮遊臭の中から、どこか見えないところから漂ってくる誰かの二酸化炭素を嗅ぎ分け、そこを目指します」
それはまさに分子レベルの嗅ぎ分け。人間の1億倍といわれる嗅覚を持つ犬ならではの能力です。

犬の嗅覚のすごさ

「そんなに鼻がいいなら、犬はこんなにいろんな匂いがいっぱいある世界で暮らして、臭くて大変じゃないかと思いますよね(笑)
実は、犬は嗅覚の能力のスイッチを入れたり切ったりできるんですよ。ただ単に呼吸をしているだけのときと、匂いを嗅ぎ分けているときとで、きちんと分けているんです。
災害救助犬の場合は、コマンド(命令)で嗅ぎ分け体制のスイッチを入れることができます」(大西純子さん)
犬の驚きの能力に、トークショーの会場からも驚きのため息が聞こえます。
「それはやっぱり、特殊な犬種しかできないことなんですか?」
と、ナビゲーターの辻よしなりさんからの質問に、大西純子さんはこう答えました。
「夢之丞が証明してくれたように、犬の鼻の能力というのは、特定の純血種でなくて雑種でも、ちゃんとその力、可能性があるんです」

初歩的な訓練のデモンストレーション。会場から名乗りを上げた希望者が箱の中に隠れ、それをハルクが探し出す。ハルクの無駄のない見事な動きに大きな拍手が。

地域福祉を目指すプロジェクト

PWJは、災害救助以外にも様々な事業を行っており、動物保護もその活動の一つです。
「ピースワンコ・ジャパン」というプロジェクトで、夢之丞のような災害救助犬育成のほか、動物愛護センターからの犬の保護、訓練、里親への譲渡活動を行っています。また、西日本最大級のドッグラン、ドッグカフェの運営という地域再生事業にも取り組んでいます。地元の広島県神石高原町と連携し、ふるさと納税のNPO指定寄付先として4億円以上の寄付を集めたことも、ニュースになりました。
ピースワンコ・ジャパンの活動で、広島県は2017年2月現在、犬の殺処分ゼロの記録を継続中です。
NPO法人と地域、自治体の連携の取り組みは、地域福祉のひとつの形として、今後も注目されることでしょう。

新しい家族との出会いを待つ、PWJが広島から連れて来た保護犬たち。きちんとしつけられている。

いろいろな支援の形

最後、大西純子さんはステージからこう呼びかけました。
「私たちは民間団体ですので、活動は皆様からのご支援によって支えられています。たとえば、どこか災害救助に出かけると日当が出る、ということではないんですね。
ですから、いろいろな活動ができるのも、多くの方からのご支援のおかげだと非情に感謝しております。
そして、この先も引き続き長く活動ができるためにも、ぜひご支援をいただけたらなと思っています」
お金の寄付、物資寄付、ふるさと納税、グッズの購入、ボランティア、里親になること。いろいろな支援の形がありますが、どういう形であれ、それが一匹の犬を救い、ひいては私たち人間を救うことに繋がるのかもしれません。
何より、キャンピングカーショーというイベントの場でこういうお話が聞けることに、“連携”という言葉が示唆する深い意味があるように思いました。

<リンク>
ピースウィンズ・ジャパン 
ピースワンコ・ジャパン